タイトル:料理の心得
今日は安いお肉が手に入ったので、ステーキにすることに。
じーーーーっと主人の顔をみていたら
「はいはい」とキッチンに立った。
私のテキトー料理はとにかく効率よく時短でつくることを極めるので
味は二の次。平日の、とりあえず急いで食べるときだけにして
週末の時間があるときは、主人にお任せした方が
良質の味わい深い料理がテーブルに並ぶ。
彼の様子をカウンター越しに見やる。
肉のかたまりを冷蔵庫からだし皿に移し・・・主人がかたまった。
「ど、どうしたの?」
すると、普段寡黙な彼が、饒舌に語り始めた。
「肉はね、焼く前には常温にもどさないとだめなんだ。
だから、常温になるのを待っているところなんだよ。
冷たいままの肉を焼くと表面は焼けたのに、中が冷たいままだったり、
逆に中まで火を通そうとすると時間がかかるからパサパサになるだろう。
さぁ、常温に戻った!といっても煮物のようにじっくり時間をかけていても
これも焼過ぎになる。だから強火で短時間に加熱することが重要なんだ。
いい感じで焼けた!なんて思っても、それをすぐにハイどうぞと出すのは
良くない。肉汁を中に閉じ込めて溢れ出てしまうのを防ぐために、そして
中心の温度を50~60℃に保つようにフライパンから焼いた肉を取り出して
アルミホイルで保温するんだ。肉は50℃を超えたあたりからタンパク質が
固まり始めるから生よりは歯切れよく噛みきれて、ちょうどよい硬さ、
ちょうど良いあたたかさ、そして噛んだ時の肉汁がじわっとでてくる
絶妙な状態で食べられるようになる。肉は温度が肝なんだよ!」
ほー。ただ焼けばいいわけじゃないんだ。
温度管理が必要なんて全然知らなかった。
さすが、我が家のシェフ!
「で、常温に戻すのはどの位かかるの?」
「約1時間程度かな」
おいおい。あなたは肉を焼くことができるようになるまで
ずっと、キッチンでお肉とにらめっこするおつもりかい?
テキトー時短料理を日々提供する者とすると
この時間がもったいなく思えるのだが・・・。
耳を澄ますと、小声で「おいしくな~れ。」と言っている主人。
なるほど・・・料理を作るときは材料の知識はもちろん、気持ちを込めることも必要なんだな。
彼の周りには柔らかで、優しい時間が流れていた。